子どもの後遺障害逸失利益の計算方法|後遺障害・後遺症でお困りの方は弁護士法人心まで

子どもの後遺障害逸失利益の計算方法

  • 文責:弁護士 上田佳孝
  • 最終更新日:2022年3月23日

1 逸失利益とは

後遺障害については。後遺障害の内容・程度に応じて労働能力喪失率(100%から5%まで)が定められています。

 

そして、労働に従事している者について後遺障害が生じた場合、その収入に労働能力喪失率を乗じることにより、後遺障害のために得ることができなくなった収入、即ち逸失利益を算定します。

2 子どもが逸失利益についての損害賠償請求をすることができるかの問題

ところが、就労予定が定まっていない子どもの場合、逸失利益算定の前提としての労働による収入が不明であることから、そもそも逸失利益を算定することができず、逸失利益についての損害賠償請求をすることができないのではないか、との問題が生じます。

これについては、最高裁の判例において、平均賃金を前提とした逸失利益を認めることができるとされたことから、未就労の子どもについても、逸失利益についての損害賠償を請求することができることにつき、争いはなくなっています。

3 どの平均賃金により逸失利益を算定するかの問題

⑴ 平均賃金は、調査により得られた賃金額を、男女別、学歴別、年齢別など、様々な要素に基づいてその平均額を算定したものです。

このため、一口に平均賃金といっても、どの平均値を用いるかにより、算定される逸失利益の額が異なることになります。

⑵ 幼児など年少の子どもの場合、就労先はおろか、就学先も不明です。

ところが、平均賃金は、全労働者、全男子労働者、全女子労働者の平均賃金のほかに、年齢別や学歴別の平均賃金もあり、将来が未定である子どもについて、どの平均賃金に基づいて算定するべきかが問題となります。

これについては、学歴別・年齢別の平均を用いないこととすることにつき、裁判などの取り扱いは統一されています。

⑶ ところが、大きな問題となったのが、男女の平均賃金の格差が現実に存在していることを理由に、男子は男子の、女子は女子の平均賃金を用いることでよいのか、という問題です。

かつての最高裁判例は、下級審(ある事件について、最高裁での審理が行われる前の、高裁や地裁など、最高裁より前に審理を行った裁判所)が女子平均賃金に基づいて算定したことにつき、これを是認していますが、あくまで下級審の結論を是認したにとどまり、「女子は女子平均賃金に基づき算定すべき」とまで判断したものではありません。

この問題については、男女平等を重視すべきとの意見と、男女の格差がある現実を踏まえて算定すべきとの2つの意見があり、裁判所の見解も定まっていませんが、東京地裁の裁判官による講演において、東京地裁の交通部(交通事故の事件を専門に取り扱う部署)では、男女間の格差をなくす方向で運用されていることが紹介されています。(※ 赤本の2018年講演録12頁)

 ⑷ 年少者のうち、卒業前の中高生のように、事故発生時に就労先が決まっていた場合もありえますが、原則として、平均賃金に基づいて算定されるものとされています。

これは、一般的な企業では、年齢が上がるにつれて収入が増加するとの傾向があり、若年のときの低賃金のまま推移することは一般的ではない、との理解によるものです。

4 後遺障害発生時と、就労時期との間に時間差がある場合の計算方法について

就労している者に後遺障害が発生した場合には、後遺障害発生時(正確には、治療を継続しても症状の改善が見込まれなくなった時点である症状固定日)を始点として損害額を算定しますが、子どもの場合は、後遺障害発生時と、就労可能時との間に時間差があることが一般的です。(例:12歳の子が後遺障害を負った場合、一般的な就労年齢である18歳まで6年の時間差がある。)

逸失利益の算定に当たり、年ごとの逸失利益を合計した額を損害額とするのではなく、その間の中間利息(将来の収入を先取りすることにより生じる利益)を差し引くこととされています。

就労後の者であれば、症状固定日から就労期間の一般的な終期である67歳までの中間利息を差し引くだけで足りますが、上記の就労時まで時間差がある例では、症状固定日の12歳から、67歳までの中間利息を控除するための係数(ライプニッツ係数)より、12歳から18歳までの係数を引いた数値を乗じることにより、中間利息を差し引くものとされています。

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